14th
【The Skeleton key】2018.11.25 記者

 思わず、膝をついて目を閉じていた。
この部屋の中に、確かに別の“何か”を感じたのだ。
力なく床についた右手が、体を支える唯一の頼りだった。

 ただ息を整え、落ち着こうと思った。
しばらく治まりそうもない吐き気を我慢しながら、その“何か”の存在を確認したかった。

 目で見たものではないことは、確かだ。
突然の頭痛から、直後の閃光。
そして、更にこの“何か”を感じるまで、どれだけの時間がたったのだろうか。
 この洋館にまつわる管理人の話は、いつの間にか終わっていたが、静寂に包まれた室内に、今は管理人の気配以外、何も感じられない。

 閉じていた目をそっとあけてみれば、靄が晴れるように視界が戻ってきた。
汚れた絨毯の床が、思いのほか近くに感じた。そして同時に、頼りなく身体を支えていた右手の指先が、濡れた床を感じとった。

これは…!?

 はっとして、顔を上げた。
一気に解けた緊張が身体を跳ね返し、出窓まで駆けさせた。
 いつの間にか力を取り戻した手が、分厚いカーテンを乱暴に引き開けた。
途端に強い日差しが差し込み、容赦なく少女の部屋を露わにした。

そこには、無数の小さな足跡が残されていた。

 * * * 

 近づく管理人に気づき、濡れた小さな足跡から顔を上げて彼を見た。
その表情は、場違いなほど落ち着いている。

いや、微笑んでさえいる。

 彼は、着古したジャケットの内ポケットから取り出したものを、無言で差し出した。
 それは、驚くほど冷たい、真鍮製のスケルトン・キーだった。

 手の中で、鈍い光を放つ古い鍵をしばらくみつめていた。何をどう聞き、話せばいいのか整理がつかないでいたからだ。不可解な体験や出来事が、あまりにも多く、そして一挙に起こった。
 しかし同時に、どう考えても正常とは思えないこの部屋に、不思議な興味すら覚えていた。
 そして、記者として自分がここに来た目的を思い直し、鍵から顔を上げた。

 管理人の姿は、なかった。

 背にしていた出窓から差し込む太陽光が、少女の部屋の中に自分の影を細長く残している。何気に振り返り、窓から外の荒れた庭を見下ろした。

 そこには、雨に濡れた少女が、こちらを見上げて立っていた。

外は、晴天だと言うのに。

14th【The Skeleton key】終

このストーリーはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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14th

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STORY 14th