Chronus ~運命ときの牢獄 ストーリー

【タイムリープ】2016年8月 牢獄

 今日が何日かも、分からなくなった。
ただ、夏だということは、分かる。暗黒のようなこの牢獄にも、夏特有の蒸し暑さが伝わってくる。
隠し持っていた時計は、休まず針を動かし続けている。しかしその力は、未だ見ることができていない。
 2年前の6月、時計工房を出た先の路地で、4人の男に囲まれた。そのまま、この地下牢獄へ連行されたという訳だ。
教団が所有する牢獄があると、噂では聞いていた。しかし、ここまで酷い場所だとは、想像もできなかった。一度入ると、出ることは許されない暗黒の終着地。そぎ削られる自身の命が、日々細くなっている。
 宗教学を専攻していたこともあり、大学を卒業しても研究を続けていた。ある日、1800年代初めに興った密教について書かれた論文を、偶然目にした。それによれば、時空を司る神が、過去と未来を行き来する力で、人の精神を救済するのだという。
最初は、ただの興味でしかなかった。しかし、その時空の神力を追い求めるうちに、それらが実在することが分かった。しかも、この日本で。その瞬間から、興味は欲望へと急変した。その力を、なんとしても我がものとしたかった。
しかし、今のこの状況は何なのだ!?
既に、生きていることすら忘れている。自分は、魂を売り飛ばしてしまった…こんなもののために!!
 たたきつけられた時計の風防が、割れた。ガラス片が、僅かに輝きながら四方に飛び散った。しかし、指先で摘まみ取れそうなほど、ガラス片がゆっくりと空中を移動していく。
そして、暗闇がホワイトアウトするような、不思議な光に包まれた。


 時計工房の前に、立っていた。
右手には、壊れた懐中時計を握っている。割れた風防で切った手の平の傷口から、血が滴り落ちた。
吸い込まれるように、工房へはいった。
「こんにちは」
 店主が言う。顔はあまり覚えていない。
壁のデジタル時計を見て、自分がタイムリープしたのだと確信した。2014年5月7日…教祖を殺した3日後だ。これこそが、時計に宿っている神の力か。今なら、逃げきれるかもしれない。
「あぁ…、アトリエの壁掛け時計が止まってしまってね。明日、修理にきてくれないか?」
「ええ、もちろんですとも」

「Chronus 時の牢獄」本編へ続く
※このストーリーはフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。